2019/02/16「和たから講座・清右衛門のみちくさ部」
先日2月16日(土)、北鎌倉 たからの庭で毎月開催されている「和たから講座 みちくさ部」に四回目の参加をしてまいりました。
今回の参加者は、私を入れて6名。春を待ちきれない面々が集まりました。
最初は、毎回恒例、鎌倉の地形・地質の説明から。鎌倉の特性を知ることで、そこに生える植物たちの特徴も関連して学ぶことができます。
※野草の採集は、講師のご指導のもとに行っています。許可のない採集はくれぐれもご遠慮ください。
たからの庭入り口の崖には、一面のシャガが生えています。
シャガは湿った場所を好む植物。急斜面の麓に堆積物がたまってできた部分を崖錐と呼ぶそうですが、シャガはこのような場所を好んで生えるといいます。崖錐には柔らかい土が堆積しており、そこに斜面から染み出た水分が流れてくるそう。シャガにとっては格好の生息環境なのですね。
タマアジサイも崖に生える植物。海沿いに生えるガクアジサイと違い、山や谷間に生えます。花期は8~9月頃で、6月頃に咲くガクアジサイより遅れて花を咲かせます。鎌倉はアジサイが有名ですが、鎌倉に古くから生息しているのは、実はこのタマアジサイの方なのです。
アジサイの属名はHydrangeaですが、これは水瓶という意味。実の形から名付けられたそうです。
どんぐりなどのように栄養がたくさんつまっている種と違い、タマアジサイの種は非常に小さく、栄養があまり含まれていません。そのため、苔の上などに落ちることで、保水力を助けてもらっているといいます。
また、崖に生える植物は萌芽する能力が高く、たくさんのひこばえを出します。 タマアジサイは、さまざまな面で、鎌倉の地形に合った植物なのですね。
次に、たからの庭から出て日向の植物と日陰の植物を観察しに行きます。
まずは日向の観察です。早速、みなさんお馴染みのタンポポを発見。しかし、身の回りに普通に生えている植物についても、毎回新しい発見があるのがみちくさ部の醍醐味です。
セイヨウタンポポと在来タンポポは、総苞片が反り返るか否かで区別することができます。自家受粉ができない在来タンポポに対し、自家受粉ができるセイヨウタンポポが勢力を拡げていましたが、近年では両者の交雑種、アイノコタンポポが勢力を拡げているそう。
オオイヌノフグリも発見。花弁にいくつもの線が入っているのがわかります。これは蜜標(ネクターガイド)といい、虫に蜜の在りかを知らせる役割があります。さらに観察すると、二本のおしべがあるのがわかります。これはクワガタソウ属の特徴なんだとか。
次に見つかったのはカラスノエンドウ。剥き出しの土を好むカラスノエンドウは、都心でもパイオニア植物として繁殖しています。
カラスノエンドウなどのマメ科の植物は、根粒菌というバクテリアと共生しています。根粒菌が窒素を与えることで、栄養分の少ない土地でも生きることができるのです。
キュウリグサは花がとても小さいため、ルーペを使って観察します。
キュウリグサはワスレナグサの仲間。確かに、小さいけれどワスレナグサにそっくりの花を咲かせますね。
さらに、紅葉したオオジシバリの葉を発見。草本も紅葉するというのは、あまり知られていないのではないでしょうか。
オオジシバリはニガナ属の植物。ニガナの名前は、「苦い菜」からきてるんだとか。
常緑樹であるスギも、ほんのり茶色に色づいています。常緑樹といっても同じ葉がずっとついているわけではなく、古い葉を落として新しい葉に入れ替わっていきます。
場所を移動すると、ウロから根を出したサクラを発見。生命力に驚かされます。
日陰に移動すると、ノシランを発見。ノシランの実はツグミやシロハラなどが食しますが、あまり美味しくないそうです。美味しい実を作るにはたくさんの栄養を使わねばならず、コストがかかります。日陰に生えるノシランは、あまり多くの栄養分を得ることができません。そこでノシランが選んだ方法は、タイミングをずらすこと。食べ物のほとんどない時期なら、不味くてもそれを食べるしかありません。「みんなが同じことをするのがいいわけではない」と部長は言います。自然界はこうして多様性を保っているのですね。パズルのピースのように絶妙なバランスで保っている生態系は、どこが欠けても崩れてしまいます。生態系保全の大切さを実感しました。
カテンソウは空気中の湿度が高い環境を好む植物のため、日陰にしか生えません。少ない日光をめいっぱい浴びるため、葉が重ならないよう、規則正しく並んでいます。
こちらでもオオイヌノフグリを発見。しかし、先程日向で観察した個体よりも葉が大きく、間延びしています。日向に生える個体は小さくギュッと締まっていても葉緑素に十分日光が届きますが、日陰に生える個体はそうはいかないので、このような姿になるのです。植物の柔軟さに驚かされます。
「いいところだけ見ていると一面しか見えない」と語る部長。植物のさまざまな面を多角的に見ることで、その魅力がもっと深く見えてくるのですね。
華やかに咲き誇っているのはカンツバキ。サザンカとツバキの雑種です。メジロや蜂などがよく蜜を吸いにやってきます。
葉が細く、葉の裏に毛が生えているのがサザンカ、葉が円くて大きく、無毛なのがツバキだそう。
木の裂け目から生えるシャガを発見。まるでノキシノブ。
たからの庭に戻り、観察を続けます。
そこで、タイワンリスに齧られたカエデの木を発見。まるで環状剥離をしたようになってしまっていますね。こうなると十分に水や栄養を吸うことができず、この枝はやがて枯れてしまいます。
早速みちくさ部からの帰り道で、タイワンリスに遭遇しました。タイワンリスはペットとして持ち込まれた個体が逸出して殖えてしまった外来種で、近年鎌倉をはじめとした日本各地で食害を起こし、問題となっています。
道にはたくさんのフジの種が落ちていました。
弾けたフジの莢は、ねじれた形をしています。このツイストする力で、種を遠くへ飛ばすのです。
次にヤマイバラを発見。ノイバラによく似ていますが、托葉に切れ込みがあるノイバラに対し、ヤマイバラは全縁です。
都心でもよく見かけるオランダミミナグサを発見。在来種のミミナグサに似ているため名付けられました。
冒頭でも書いたように、鎌倉にはたくさんの崖があります。崖は、競争率の高い普通の地面には生えない植物の大事な棲み家になっています。
シダ植物のミツデウラボシもそのひとつ。
種子植物に比べ、胞子が非常に小さいシダ植物は、地面での生存競争に勝つことはできません。
鎌倉を代表する植物のひとつ、ケイワタバコも、もちろん崖に生える植物。
最後にたからの庭のシンボル、八重の椿を見に行きました。
途中の坂で、ワサビを発見。身近な食材ですが、生えている姿を見る機会はなかなかありませんよね。
ワサビには他感作用(アレロパシー)があり、忌避物質を出して他の植物の生長を抑えることができます。ワサビの辛み成分はワサビオールといい、忌避物質がその正体なのです。他感作用のある植物としては、他にセイタカアワダチソウ、ナガミヒナゲシ、ナヨクサフジなどが有名ですね。この忌避物質は自身にも作用してしまうため、地面に生えているワサビはあまり根を太くすることができません。そこで、ワサビ田は清流に作るのです。綺麗な水が絶えず流れることで、忌避物質を洗い流すことができ、根が太くなるといいます。
坂を登りきると、石切り場の跡がありました。500~600年前のものだそうですが、古くから鎌倉の崖が、人間の文化とも結びついていたことがわかります。
石切り場の跡に生えている大きなシダはコモチシダ。表面に子株ができることからこう名付けられたそう。
こちらがたからの庭のシンボル、八重の椿。部長が樹木医として治療した第二号の木だそう。
残念ながら八重の椿も、タイワンリスの被害を受けていました。
坂の上からは、うっそうとした鎌倉の森が見えます。鎌倉はその景観を守るため、許可なしに樹木を伐採することができないそう。
坂を降りる途中、早春らしい、フキノトウを見つけました。実は部長、フキノトウが苦手。幼い頃、あまりに食卓に上がり過ぎて、嫌気がさしてしまったんだそう。
ひとつひとつが一個の花で、それがいくつも集まって薹を形成しています。
部長が興奮気味にしゃがみこんだ先には、ヤマネコノメソウ。空中の湿度が高い場所に生える植物で、貴重な植物なんだそう。
※野草の採集は、講師のご指導のもとに行っています。許可のない採集はくれぐれもご遠慮ください。
一見生きづらい場所に見えても、その植物にとってはそこが適した場所だということが、生態を観察することでよくわかりました。みんな同じじゃなくてもいい、植物に勇気をもらえた回でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
おまけ