2018/12/15「和たから講座・清右衛門のみちくさ部」
先日12月15日(土)、北鎌倉 たからの庭で毎月開催されている「和たから講座 みちくさ部」に三回目の参加をしてまいりました。
一面のシャガを抜けていくと、たからの庭です。
みちくさ部12月のテーマは、「冬至に、もみじの吹雪」。
今回の参加者は、私を入れて11人。花の少ない時期ながらの超満員!
はじめに鎌倉の地形の説明から。崖が多い地形のため、湿気が籠りやすく、日陰が多いそう。
今回は日当たりによって生える植物がどのように変わるかに着目しながらの観察でした。
※野草の採集は、講師のご指導のもとに行っています。許可のない採集はくれぐれもご遠慮ください。
まずは日当たりのよい開けた場所での観察です。あたりにはちらほらとタンポポが。
背が低く、一年中ロゼット状の葉を広げるタンポポは、他を押しのけて伸びることができないため、周りに草丈の高い植物があると生きていけないそう。だから今回の場所のように、定期的に刈り込まれる開けた場所によく生えるのですね。
今回生えていたタンポポは、セイヨウタンポポ。総苞片が反り返っていることで、在来タンポポと区別できます。
セイヨウタンポポは在来タンポポと違いほぼ一年中花を咲かせることができるため、この時期に花を咲かせているものは大抵セイヨウタンポポだそう。
また、他家受粉でのみ殖える在来タンポポと違い、セイヨウタンポポは自家受粉で殖えることができるます。そのため繁殖力が強く、あたり一面同じセイヨウタンポポが広がる光景が見られることも。
実はタンポポなどキク科の植物は、花びらのように見える部分それぞれがひとつの花なんです。部長曰く「チームプレー戦略」。
タンポポは舌状花のみで形成されていますが、ヒマワリのように舌状花と筒状花で形成されている花もあります。逆に、筒状花のみで形成されているのが、アザミの仲間。
日なたには、他にキュウリグサが生えていました。葉をもむとキュウリのような匂いがすることから名付けられた和名だそうですが、確かに青臭い匂いはするのだけど、キュウリ……?
和名には、他にもっといいようがあったんじゃ……と思われるものがたくさんあっておもしろいですね。オオイヌノフグリとか、ハキダメギクとか、ママコノシリヌグイとか……。
‟田平子”と呼ばれる植物はいくつかありますが、キュウリグサもそのひとつだそう。田んぼに平たく生えることからそう呼ばれるのですね。
これら人間が定期的に手を入れる開けた土地に生える植物は、俗に‟雑草”と呼ばれます。人間による攪乱に耐えることができるため、身近にいることからそう呼ばれてしまうのですね。そんな彼らも、草丈の高い植物に囲まれた場所や、林床などには生えることができません。部長曰く「そこに合っているから生えているだけ」で、雑草などと呼ぶのは人間の勝手なのですね。
キュウリグサは、実はワスレナグサの 仲間で、こんなに可憐な花を咲かせるんです!
日なたでの観察を終えると、今回のメインともいうべき紅葉の観察に移ります。宝庵という茶室の前で観察開始です。
まずは、紅葉のメカニズムを学びます。
植物は光合成をおこなうことで、自らが生きるのに必要な栄養を作り出します。この光合成を担うのが、クロロフィル。緑色の正体です。
気温が低いと、光合成をすることができなくなります。しかし、光合成ができなくとも、呼吸をし、栄養を使わなくてはなりません。そこでクロロフィルを分解し、葉を落とす作業を始めます。
緑色色素であるクロロフィルが分解されると、緑色に隠れていたカロテノイドがあらわれます。これが黄葉の正体です。
では、紅葉は……?
気温が下がり、光合成ができなくなっても、日光はなおも降り注ぎます。すると、活性酸素が発生します。この活性酸素は老化の原因となるもので、細胞に悪影響を及ぼします。そこで、活性酸素から身を守るため、アントシアニンを生成します。これが紅葉の正体なのです。
紅葉には、日光が深く関わっていることがわかりました。陽の良く当たる部分ほど紅葉が進み、葉が重なっている部分は緑色が残っていることがわかります。
紅葉のグラデーションは、陽の光によって生まれていたのですね。
再利用できる栄養を幹に移動させた後、葉を落とします。
※紅葉のメカニズムは、部長のご説明を私なりに解釈して記したものです。誤りがありましたらご指摘ください。
次に、満開のカンツバキを観察しました。
一見違いのわかりにくいツバキとサザンカですが、花ごと散るのがツバキで、花びらが一枚一枚散るのがサザンカです。
カンツバキは、ツバキの血が混じったサザンカの仲間だそう。花びらは一枚一枚散ります。この時期咲いているのはたいていカンツバキだといいます。
カンツバキで最もよく見られるのはタチカンツバキ(品名:勘次郎)で、八重咲のものはハイカンツバキ(品名:獅子頭)だそう。
次は日陰での観察です。
斜面には、キチジョウソウやシャガが葉を垂らすようにして生えています。
斜面の下、崖からの水がしみ出して湿り気を帯びた場所には、カテンソウが生えていました。山奥の環境のいいところに生える植物だそうですが、駅から程近いこのような場所に生えているのは、鎌倉の地形ゆえですね。
カテンソウは日の届きにくい場所に生えるため、葉が重ならないよう、同一平面上につけるのが特徴です。
このような場所には、ニリンソウもよく生えるそう。
観察中、参加者のひとりがイラクサに刺されてしまいました。イラクサは漢字で書くと刺草。茎や葉の裏に、注射針のようなトゲが生えています。このトゲには蟻酸が含まれており、痛みと痒みが一時間ほど続くそう。お大事に……。
次に見つかったのはショカツサイです。春に可憐な薄紫の花を咲かせる植物ですね。しかし、あれ……私が知っているショカツサイと、葉の形が違う……。
疑問に思っていると、部長から解説が。ショカツサイは芽生えの時期はフキのような円い葉をつけ、その後ダイコンに似た葉をつけるそう。私が見たことがあったのは、後から生えてくる葉だったのですね。
身近な植物でも、花の咲かない時期を観察するとまだまだ新たな発見がありますね!
ショカツサイには、ハナダイコンという別名がありますが、根はそれほど大きくならず、食べることはできません。
次に、たからの庭入り口に戻って崖を観察します。
崖にはタマアジサイが生えていました。花が終わり、実がついています。
タマアジサイは、他の草が生えられないような崖に生えることで生き延びてきた植物だそう。部長が画用紙の上で実を崩すと、中からはほこりのような種が。この細かい種が、崖に生えた苔などに付着して芽を出すそうです。
次に部長が発見したのはジュウモンジシダ。特徴的な形態を、スペシウム光線のポーズで説明してくださいました。
最後にたからの庭裏手の崖を観察します。
崖の下にはカキドオシがたくさん生えていました。先程見たショカツサイに葉の形がそっくりですが、葉脈の模様や色合いが少し違います。
部長が根を引き抜くと、その違いがよくわかりました。ショカツサイは主根がはっきりしていますが、カキドオシの根は細めです。また、カキドオシはストロンを伸ばして別の株をつけています。
崖には、ところどころ枯れ葉がついていました。ケイワタバコです。
湿った場所に生えるケイワタバコは、タマアジサイと同じく、ほこりのような種をつけます。全く分類が異なる植物でも、環境によって似たような形態になるのですね。収斂進化のロマンを感じます。
観察が終わると、台湾の高山茶を飲みながら、スエさんのふくれをいただきました。
実は101回目の開催だったみちくさ部。お祝いに駆け付けた部長のお知り合いが、菌類に寄生する植物の写真をたくさん見せてくださいました。
寄生植物はヤセウツボくらいしか見たことのない私。貴重なお写真に、密かに大興奮でした。
※野草の採集は、講師のご指導のもとに行っています。許可のない採集はくれぐれもご遠慮ください。
今回は日当たりに着目しての観察でした。それぞれが環境を選んで、戦略的に生きていると語る部長。植物と環境との結びつきを知ることで、植物の奥深さをより楽しむことができました。
花が少ない時期でも、たくさんの発見があることを知った回でした。また参加したいと思います。200回目の開催をお祝いできる日を期待したいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!