5月7日、日本大学薬学部薬草教室で、渋谷区ふれあい植物センター元園長宮内元子さんの講演会が行われました。
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【講演会】
講演のタイトルは「毒にも薬にもなる植物園の話」。まず自己紹介をされたあと、植物園の存在意義のお話になりました。
植物園には「見せる」「保存する」「研究する」「学んでもらう」という役割があるといいます。
しかしながら日本一小さい植物園であるふれ植は、保存や研究を担うには心もとないところがありました。そこで「次の植物園に足を運んでもらうためのハブになること」「行き場がない人の居場所になること」「渋谷という都会で異空間を体験できるようにすること」を目指したそうです。
実際にそれは達成されていたと思います。ふれ植は近隣住民や学生、サラリーマンの憩いの場となり、訪れた人々が好奇心を深めるきっかけを与える施設となっていました。
ふれ植の閉園が決まったとき、これだけの発信力と植物園への愛をもつ方を、全国の植物園が逃すはずはない、もう次の活躍の場は決まっているのだろうと勝手に思い込んでいました。
しかし、最後のインスタライブで宮内さんは「ここを守れなかった私に、もう植物園に関わる仕事をする資格はない」とおっしゃいました。そこで初めて、宮内さんがそこまで思い詰めてご自分を責めていらしたことを知りました。
私は、ふれ植の閉園問題について、最も心を砕き、最も行動した宮内さんに、それを言わしめてしまったことを後悔しました。
思えば私たちの世代は、生まれたときからずっと少数派で、公を数の力で動かせないことを、当たり前だと諦めてきました。選挙に行くのも、若者が参政している姿を周囲に見せることで、蔑ろにされないようにするためのせめてもの抵抗。役所に意見を送るのは、やれるだけのことをしたと自分に言い聞かせるため。その一票、一意見で何かを変えられるとは、本気で思っていないところがありました。
しかし数は、伝えていくことで増えていきます。
身近な人に、ひとりでも多くふれ植の危機を伝えて、一緒に考えて欲しいと呼びかけることを、私はしなかった。発信力のない私たちでも、少しずつ周囲の人に伝えて、その輪を拡げていけば、やがて大きな力になったはずだったのに。
私たち市民が知らされた頃には、多分お上の決定は揺るぎないものになっていて、形式的に意見を問うても、計画を変えるつもりはなかったのだと思います。
それでも、みんなで渋谷区役所の前を転げ回って駄々をこねればよかった。私たちはちょっとお行儀が良すぎました。
宮内さんもおっしゃっていましたが、動物、特に哺乳類では「かわいそう」がとても力を持ちます。しかし、残念ながら植物はその限りではありません。
植物が人間とはかけ離れた構造を持つ生き物であり、死の概念が動物より曖昧であるせいだと思います。それは私にとってとても大きな魅力ではあるのですが、多くの人の感情へ訴えかける力には欠けるところがあります。
ふれ植の植物たちは、熱帯に生きる植物であるにもかかわらず、二月までの移送を要求されたそうです。
三人の造園屋さんの手で、枝の先まで支柱が立てられ、根が冷えないようにぐるぐる巻きにされて、大切に運ばれる竜血樹の写真を見せていただきました。移送先の園館も、限られたスペースの中で、それでもふれ植の植物たちを救いたいと、なんとか譲渡を受け入れてくださったそうです。
移植を嫌うヒスイカズラの幹を宮内さんご自身の手で伐り斃したとき、断面から血のような樹液が噴き出たお話を聞いたら、涙が出ました。
宮内さんは、これを「美談にしてはいけない」と強くおっしゃいました。
私たちがふれ植を喪った悲しみを忘れてはいけないのは、決してただ感傷に浸るためではありません。
京都府立植物園の再整備、大船フラワーセンターの冬期加温の停止。王子動物園の再整備。私が勤めている図書館で、開架書架を縮小してスタバを入れようという案が浮上したのも同根の問題です。
儲かるのなら放っておいても民間が勝手に競争するのであって、儲からないものをいかに運営して保っていくかが公の仕事だと私は思います。直接的な経済効果はなくとも人々の心を豊かにするために必要なもの、それを守らなくて何が政治じゃと思うのですが、今日本では儲からない分野の経費を削減して、目先の利益だけを求める動きが非常に強まっていると感じます。
ハーバリウム(標本庫)についてのお話で、宮内さんは「何が役立つかわからない」「今の私たちは目の前に見えているものしか見ていない」「次の未来に引き継ぐからこそ可能性が出てくる」とおっしゃいました。講演会で紹介されたキューガーデンでは、植物は国の資源として、長期的な国家戦略として研究されているといいます。日本はまだまだその視点に至っていません。
ふれ植を守れなかった悔しさを、次にまた大切な場所を奪われないようにするための力にしなければなりません。
正直、植物を仕事として担っているわけでも学問として研究しているわけでもない我々いち来園者に、一体何ができるのだろうと思っていました。
単に美しさや癒しを提供するだけではなく、知識を普及することこそが植物園の使命だと語る宮内さん。これを「見る目を育てる」と表現されます。
植物園を訪れ、展示を見ることで、来園者はもうすでに「見る目」をもらっているといいます。植物園を訪れて得たそのタネを、自分の中で育て、収穫するのもよし。誰かに分けてあげるのもよし。そのタネこそが、植物園が市民に向けて開かれている意義なのです。
宮内さんを口説き落として、まだまだ宮内さんには植物園に関わる使命があることを気づかせてくれた水戸市植物公園に、いちファンとしてお礼を言いたい気持ちです。才能を見捨てないでくれてありがとう。遊びに行きます。
ふれ植の閉園問題についてばかり書いてしまいましたが、メインのお話は植物園の楽しみ方です。おすすめの植物園やグッズなどをご紹介いただきました。植物屋ではなく「植物園屋」を名乗る宮内さんらしく、ニッチな視点での植物園の楽しみ方がお聞きできて、とても楽しい講演会でした!
次はどんなワクワクを見せてくれるんだろうと、これからもご活躍を楽しみにしています。
【薬用植物園ガイド】
私たちのグループは、日本大学薬学部の矢作忠弘さんにご案内していただきました。
日本大学薬学部薬用植物園では、東京ドームとほぼ同じ約一万平米の土地に、さまざまな薬用植物が植えられています。
習志野台地の特徴をそのまま残した自然林。
日本産のクレマチス。船橋市の花。近縁のテッセンは「威霊仙(イレイセン)」という生薬になるそう。
かつてあった真鶴サボテンランドから譲り受けたそう。100年生きているとかいないとか……
最も栽培しやすいランで、そこら辺に生えている。ラン科らしくリップ(唇弁)がある。塊茎が「白及(ビャッキュウ)」という生薬になるそう。★
(ミカン科)【用部】果皮=花椒(カショウ)【用途】止痛、駆虫、抗菌作用
中華料理に用いられるホアジャンのこと。
ちょうど植物園の外に日本のサンショウが生えていた。★
〈有毒植物〉(ケシ科)【用部】花弁=麗春花(レイシュンカ)【用途】鎮咳
これらは栽培してもよい種。アヘンやモルヒネを含むケシ、アツミゲシは東京都薬用植物園に行けば見れるらしい。
中毒を起こすほどの有毒植物は、それだけ人間の身体に働きかける力が強いということ。そのためうまく利用すれば、薬にもなることも多いそうです。
(ケシ科)【用部】花、種子【用途】発汗、鎮痛、壊血病
今日のポピー
昔健康食品として流行ったが、アルカロイドを含むことがわかり禁止になったそう。
ジャコウアゲハが食べるやつ。ふれ植近くの氷川神社にもよく生えていた。
〈有毒植物〉(トウダイグサ科)【用部】種子=続随子(ゾクズイシ)【用途】利尿、瀉下
トウダイグサ科らしい杯状花序。
(タデ科)【用部】根=ラポンチクム根【用途】緩下、賦香料
軽井沢土産で有名なルバーブジャムに使われる。スイバのように酸っぱい。
樹皮を剥ぐと黄色いためこの名がつけられた。胃薬に使われるそう。
〈有毒植物〉(セリ科)【用部】果実=コニウム実【用途】筋弛緩薬、全草にコニインを含み有毒
ソクラテスの処刑に使われたことで有名。
(セリ科)【用部】果実=胡荽子(ゴズイシ)【用途】健胃、駆風、香辛料
パクチーのこと。矢作さんはよく夕飯に毟って帰るらしい。セリ科らしい複散形花序。
水戸黄門の杖。これはたぶん雑草。最近鬼滅の刃の某鬼のせいでサジェスト汚染がひどい。★
葉に入る斑をマリア様のお乳に見立てて名付けられた。肝機能に利くらしい。帰化植物見本園でも見れる。
(スイレン科)【用部】根茎=川骨(センコツ)【用途】(駆瘀血)、止血、利尿【漢方】治打撲一方
根っこが魚の骨のようであることから名付けられたそう。
つぼみがアスパラみたいでおいしい。
(サトイモ科)【用部】根茎=菖蒲根(ショウブコン)【用途】入浴料
(マオウ科)【用部】地上茎=麻黄(マオウ)【用途】発汗、鎮咳、解熱【漢方】葛根湯、麻黄湯
日本の薬学の祖、長井長義がこの植物からエフェドリンを発見したという。一般的な葛根湯に使われているが、ドーピング検査で引っかかる成分であるため、注意が必要だそう。遠目にはヒメドクサにしか見えない。
複数の花が集まってできている。
サトイモ科の中にはウラシマソウのようにこの付属体がとても長いものもあるが、なんのためにあるのかはまだ解明されていないらしい。
この塊茎が薬になるので、昔の子供はこれを薬屋に持ち込んでお小遣い稼ぎをしていたそう。そのため「ヘソクリ」の別名がある。
(ユリ科)【用部】根茎=萎蕤(イズイ)【用途】強壮、打撲傷
近縁のナルコユリとは、茎が角ばっていることから見分けることができるそう。
(アケビ科)【用部】茎=木通(モクツウ)【用途】利尿、通経【漢方】当帰四逆湯
(オミナエシ科)【用部】根と根茎=吉草根【用途】鎮静、鎮痙、カノコソウチンキ
ヒステリーに利くといわれているが、乾燥させるとめちゃくちゃ臭いそう。
芽生えの時期に山菜として利用されるニリンソウやヤブレガサなどに間違われる事故がよく起きる。
葉柄を口に含んでみて唾液の出る量が多ければ毒性が強いという俗信があり、矢作さんが実験させられたが、体調を悪くした挙句、科学的に解析した毒の量との相関はなかったそう。
養命酒に入っているそう。
~ここからは自由見学~
(セリ科)【用部】根==前胡(ゼンコ)【用途】解熱、鎮痛、鎮咳、去痰【漢方】荊防敗毒散、参蘇飲、蘇子降気湯 ★
つぼみが鶴の首みたいな形しててかわいいから好き。
花が終わると実の形がおもしろい。★
激おこイモムシことフクラスズメが食べるやつ。繊維が採れる。★
(シソ科)【用部】塊茎=草石蚕(ソウセキサン)【用途】鎮痛、打撲、食用
チョロギを収穫した。 pic.twitter.com/IT5xcVSe9a
— 長谷川 (@hase2_animal) 2021年12月26日
これがなきゃ正月が来ない。
(タデ科)【用部】全草【用途】民間で血管鏡花、果実はソバ粉原料
(ナス科)【用部】塊茎より得たバレイショデンプン【用途】賦形剤
これはたぶん雑草。立派だったので撮った。★
(キク科)【用部】管状花=紅花(コウカ)【用途】通経、色素原料【漢方】通導散
(アブラナ科)【用部】種子=カラシ油/葉=サラダ菜【用途】利尿、胃痛、灯用油原料
(マメ科)【用部】種子、種皮、花、茎葉【用途】止血、利尿
アップルミントのこと。繁殖力が強く、その辺の河川敷に大繁殖している。
(ユリ科)【用部】鱗茎=葱頭(ソウトウ)【用途】発汗、利尿、強壮
(ユリ科)【用部】鱗茎=大蒜(タイサン)【用途】食品香辛料、強壮、健胃、利尿
(ショウガ科)【用部】花茎、若芽【用途】食用(薬味) ★
うちの庭にいっぱい生えてる。
これはたぶん雑草。アブラムシ涌きがち。★
(キク科)【用部】全草【用途】条虫駆除、健胃
(ミカン科)【用部】全草=芸香草(コウソウ)【用途】通経、鎮静、駆風
ナミアゲハが食べるやつ。
(アブラナ科)【用部】種子/根【用途】健胃、去痰/便秘、消化促進、美肌
(イネ科)【用部】種子から得たでんぷん=コムギデンプン【用途】賦形、散布、パスタ
〈有毒植物〉(イネ科)有毒なアルカロイドperlotine、temulineは花の寄生菌により生産される。
〈有毒植物〉(イネ科)穂状花にClaviceps purpure Tulasuneを接種し、子房中で発育した菌核をを麦角といい、子宮や平滑筋の収縮、止血薬に用いる。
捕まえ手。人の背より高かった。
麦の仲間がめちゃくちゃ充実していました!
花がしぼむと赤くなる。
(キク科)秋田蕗。雌雄異株の多年草。葉柄の長さは2m、葉の直径は1.5mにもなり、砂糖漬けなどに加工されます。
クソデカふき。
(ベンケイソウ科)【用部】葉【用途】民間で腫物に外用 ★
(ツヅラフジ科)
(クワ科)【用部】雌花穂(腺体)=ホップ(腺)【用途】芳香苦味健胃、鎮静、利尿
(アブラナ科)葉にindigoを含み、藍色染料に用い、また民間で黄疸に用いた。
〈有毒植物〉(トウダイグサ科)【用部】根=大戟(タイゲキ)【用途】民間で下剤、含そう剤
(ユリ科)【用部】貯蔵根=天門冬【用途】滋養強壮、鎮咳、利尿【漢方】黄耆別甲湯、清盃湯
(ユリ科)【用部】根茎=知母(チモ)【用途】解熱、鎮静、利尿【漢方】白虎湯
(キツネノマゴ科)【用部】根、葉【用途】民間で止瀉、止血
(シソ科)【用部】花、葉【用途】消化促進、殺菌 ★
これはたぶん雑草。★
(フトモモ科)【用部】葉【用途】駆虫、消炎
(マメ科)【用部】果実=皂莢(ソウキョウ)【用途】去痰、利尿、入浴料
サポニン三人衆(私が言ってるだけ)のひとり。洗濯に使える。
一名アケボノスギ〈曙杉〉 スギ科メタセコイア属 分布=中国(四川・湖北省) 1945年に生木が発見(生ける化石として有名) 落葉高木 ★
(ユキノシタ科)【用部】葉ーアマチャの代用【用途】甘味、矯味料
(ウマノスズクサ科)【用部】根および根茎=馬蹄香(バテイコウ)【用途】健胃、関節痛(小児は配合禁忌、全草に有毒説)
憧れの方にめちゃくちゃ気合い入れて会いに行ったらお褒めいただいてうれちかた…… https://t.co/ULYI8H4Zn0 pic.twitter.com/FgsgqSxpjp
— 長谷川 (@hase2_animal) 2022年5月7日
↑右手の固まり方がアイドルとチェキ撮る新規オタク。
【帰り道】
おまけの帰り道。
「今日ここに来るまでの道に生えていた植物に、みなさん目もくれなかったと思いますが……」とおっしゃっていましたが、私は見てるよ!と思ったので載せます。
これが目に入るようになってくると目的地に一向に辿り着けなくなります。
●大学構内
●船橋日大前駅までの道
こういった道端に生える雑草たちは、薬用植物園で見てきた植物のように直接人間の役に立つことはありません。しかし、山野草が生きることのできないコンクリートの隙間で、私たちの眼を楽しませてくれます。この世界にはこれだけたくさんの種類の〈かわいい〉が溢れている。それだけでこの世への執着が生まれませんか?一見役に立たない雑草も人の命を救っているんです。